福島原発事故は人びとに何をもたらしたのか

「復興」と「再生」のなかで増幅され埋もれていく被害

シリーズ 環境社会学講座 3

福島原発事故は人びとに何をもたらしたのか

不可視化される被害、再生産される加害構造

  • 関 礼子/編
  • 原口 弥生/編
  • 四六判
  • 296頁
  • 2500円+税
  • ISBN 978-4-7877-2303-1
  • 2023.09.20発行
  • [ 在庫あり ]

書評・紹介

紹介文

〈「復興」と「再生」のなかで増幅され埋もれていく被害〉

原発事故がもたらした大きな分断と喪失。
事故に至る加害構造が事故後に再生産される状況のなかで、被害を封じ込め、不可視化していく力は、人びとから何を剝奪し、被害を増幅させたのか。
複雑で多面的な被害を生き抜いてきた人びとの姿を見つめる。

〈「福島の復興なくして、日本の再生なし」という掛け声のもと、避難指示区域の除染と解除、住民の帰還推進とそのための復興事業が行われてきた。だが、「復興」は内実を省察しなければ「神話」となり、批判してはならないタブーになる。復興すべき地域や人の生活が「復興災害」に見舞われることも懸念される。
見えない被害、埋もれていく被害、新たに生まれる被害に敏感であることの重要性は、本書の事例が示している。被害の様相は浅くもなり、深くもなっている。多くの苦難を抱きつつも、より良い生を希求し続ける人びとの声に今後も丁寧に耳を傾けていく必要がある。——編者〉

【執筆者】藤川 賢/長谷川公一/平川秀幸/高木竜輔/西﨑伸子/除本理史/小山良太/望月美希/野田岳仁/廣本由香/林 勲男

目次

序章 不可視化される被害と再生産される加害構造……関 礼子

I 福島原発事故の〈加害—被害〉構造——史上最大の公害事件の背景
第1章 福島原発事故がもたらした分断とは何か……藤川 賢
第2章 原発城下町の形成と福島原発事故の構造的背景……長谷川公一
第3章 不安をめぐる知識の不定性のポリティクス——避難の合理性をめぐる対立の深層……平川秀幸

II 被害を封じ込める力、被害に抗う力
第4章 避難者を受け入れた被災地域の葛藤……高木竜輔
第5章 避難指示の外側で何が起こっていたのか——自主避難の経緯と葛藤……西﨑伸子
第6章 原子力損害賠償制度の不合理——被害者の異議申し立てと政策転換……除本理史
第7章 農林水産業は甦るか——条件不利地の葛藤と追加的汚染……小山良太
コラムA 農地の除染が剝ぎ取るもの……野田岳仁

III 「復興」と「再生」のなかで——増幅され埋もれていく被害
第8章 「ふるさとを失う」ということ——定住なき避難における大堀相馬焼の復興と葛藤……望月美希
第9章 「生活再建」の複雑性と埋もれる被害……原口弥生
第10章 福島原発事故からの「復興」とは何か——復興神話とショック・ドクトリンを超えて……関 礼子
コラムB 未完の復興——福島県広野町のタンタンペロペロの復活と交流の創出……廣本由香
コラムC 原発事故の記憶と記録——展示とアーカイブの役割……林 勲男

終章 加害の増幅を防ぐために——被害を可視化し、「復興」のあり方を問う……原口弥生

出版社からのコメント

「シリーズ 環境社会学講座」全6巻、2023年4月刊行開始!
詳細は下記URLをご覧ください。
https://www.shinsensha.com/news/5554/

著者紹介

関 礼子(セキ・レイコ)

1966年、北海道生まれ。立教大学社会学部教授。専門は環境社会学、地域環境論。
主な著作等:『シリーズ 環境社会学講座 3 福島原発事故は人びとに何をもたらしたのか——不可視化される被害、再生産される加害構造』(共編著、新泉社、2023年)、『福島からの手紙——十二年後の原発災害』(編著、新泉社、2023年)、「自然と生活を軽視する論理に抗う——新潟水俣病にみる公害被害の現在」(『シリーズ 環境社会学講座 1 なぜ公害は続くのか——潜在・散在・長期化する被害』新泉社、2023年)、『多層性とダイナミズム——沖縄・石垣島の社会学』(共編著、東信堂、2018年)、『阿賀の記憶、阿賀からの語り——語り部たちの新潟水俣病』(編著、新泉社、2016年)、『“生きる”時間のパラダイム——被災現地から描く原発事故後の世界』(編著、日本評論社、2015年)、『鳥栖のつむぎ——もうひとつの震災ユートピア』(共編著、新泉社、2014年)、『新潟水俣病をめぐる制度・表象・地域』(東信堂、2003年)など

原口 弥生(ハラグチ・ヤヨイ)

茨城大学人文社会科学部教授。
主要業績:「環境正義は何を問いかけ、何を変えてきたのか」(藤川賢・友澤悠季編『シリーズ 環境社会学講座 1 なぜ公害は続くのか——潜在・散在・長期化する被害』新泉社、2023年)、「3.11後の広域放射能汚染に関する茨城県内自治体の対応——市町村アンケート調査結果より」(蓮井誠一郎と共著、『人文社会科学論集』1、2022年)、「被災者支援を通してみる原子力防災の課題」(『学術の動向』25(6)、2020年)、「『低認知被災地』における問題構築の困難——茨城県を事例に」(藤川賢・除本理史編『放射能汚染はなぜくりかえされるのか——地域の経験をつなぐ』東信堂、2018年)など

関連書籍

  • 福島からの手紙
  • 地域社会はエネルギーとどう向き合ってきたのか
  • なぜ公害は続くのか
  • マーシャル諸島 終わりなき核被害を生きるFTP
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  • 公害に第三者はないFTP
  • 避難と支援
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