生きることに〇×はない

わたしが生きてきたのは、生きたというよりむしろ、ただ死ななかっただけ

生きることに〇×はない

  • 戸井田 道三/著
  • 植田 真/イラスト
  • 鷲田 清一/解説
  • 四六判
  • 288頁
  • 2000円+税
  • ISBN 978-4-7877-2202-7
  • 2022.07.10発行
  • [ 在庫あり ]
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書評・紹介

紹介文

在野の哲学者である戸井田道三が青少年向けに書いた自伝的エッセイを44年ぶりに復刊。あらたに鷲田清一氏の解説と植田真氏のイラストを加えて生まれ変わりました。母親との死別、結核などの大病、関東大震災での朝鮮人虐殺……と、本書で取り上げられている戸井田の話は決してハッピーな内容ではありません。しかし、そんな辛い経験の中から戸井田は、「わたしが生きてきたのは、生きたというよりむしろ、ただ死ななかっただけなのだ」と思考します。そして、「生きのびているだけで、それが手柄だよ」という恩師の言葉を引き合いに出し、「生きることの意味」について語ります。そんな戸井田の言葉は、現代の若者にもきっと届くでしょう。

目次

目次

自分と他人はとりかえられない
大事な、十四、五歳

最初のハードル
大森海岸でのこと
母の死
チイちゃんのひとこと

小学一年生のころ
母のない子の熱海
「おまえのためにびりだ」
いじめっ子のアブヨシ

田舎にあずけられて
犬を飼えない生活がある
水中に浮く変な感覚
四季のうつりかわり

父の結婚
『立川文庫』におそわって
新しい母
波音のとまる瞬間の深さへ

病気もわるいとはかぎらない
悪い本ときめたがるのは
死の淵からもどった目にうつるものの美しさ
試験は誰のためにある?

ゆれる大地、関東大震災
気のすすまぬ転校
流されたうわさ
ツネさんの絵

あとがきにかえて

解説(鷲田清一)

出版社からのコメント

この本で戸井田は、一貫して「生きること」の意味について、自身の体験をもとに語っています。身体が弱く、何度も死にそうになりながらも生きながらえた戸井田は、死を語ることで「生きる意味」について思いを巡らし、「死なないでいる」ことの意味を知るのです。
「自分の生きることを生存と生活という二つのレベルにわけ、単なる生存でなく人間として意味ある生活をしたいと考えていたのですが、生きることに生存と生活の区別などありはしないのでした」。そう語る戸井田の言葉は、「生きがい」や「生きることの意味」にこだわりすぎる現代人の心に、静かな波紋を起こすのではないでしょうか。そして、いまや戦争が遠い国の話ではなくなってしまった現実に直面する私たちに、この本は「いのち」について考える機会を与えてくれるでしょう。

著者紹介

戸井田 道三(トイダ・ミチゾウ)

1909年、東京生まれ。旧制早稲田中学を経て早稲田大学国文科卒。1933年、中央公論社に入社するが、病のため長い療養生活に入る。1948年、天皇制と能楽の関係を説いた『能芸論』(伊藤書店)を上梓、民俗学、人類学を援用した能や狂言の考察で知られた。1954年より毎日新聞の能評を担当、のち映画評もおこなった。『きものの思想 えりやたもとがものを言う』(毎日新聞社、1968年)で第17回日本エッセイスト・クラブ賞受賞。1988年3月24日没。

植田 真(ウエダ・マコト)

鷲田 清一(ワシダ・キヨカズ)

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