学びの本質を解きほぐす

いま学校で何が「学び」だと考えられているのか?

学びの本質を解きほぐす

  • 池田 賢市/著
  • A5判
  • 264頁
  • 2000円+税
  • ISBN 978-4-7877-2104-4
  • 2021.04.14発行
  • [ 在庫あり ]
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紹介文

校則で「下着の色」は指定できるのだろうか? グローバル化が進む現在、地毛証明書はとんでもなく時代遅れではないのか? いま、学校で行われているこうした事柄は、学校の外で行ったら人権侵害で、時には犯罪として訴えられてもおかしくないことである。ところが、学校という閉鎖された空間のなかでは、すべてが「学力向上のため」というお題目を立てられ、生徒も保護者もこうしたおかしな校則にも声を上げられない。そればかりか、逆に自ら進んで従順に、隷従していくのである。
学校における「評価」で卒業後の生活の多くが決まってしまう現代社会では、みな、なるべく高い値段をつけてもらえるように頑張り、上手くいかなければ非難され、そして傷つき、疲弊していく。
すべてが自己責任であるという間違った道徳的価値を押し付けられているために、その抑圧的な構造を自らが支えてしまっていることに気づかせてもらえない。
もし、そのおかしな構造に気づいてしまったら、その子は「問題のある子」として扱われる。
それが今の日本の「学びの場」で起きていることである。
著者は、この本で一貫して、「学ぶことの権利」について主張している。本来、学ぶということは、誰かにいい評価をつけてもらうためではない。もっと自由で楽しいものであるはずだ。いい「評価」をもらわなければ!と子どもたちを追い詰める「学校教育」の呪いの正体を探る。

目次

はじめに
序 章
第1章「不登校」
1 義務教育制度の意義
(1)増加傾向にある「不登校」
(2)義務教育制度の原則
(3)労働法制との関連
(4)国家的観点からの教育
2 教育の中立性
(1)教育内容への関心
(2)中立性のむずかしさ
(3)中立ではありえない教育
3 不登校対策の課題
(1)不登校問題への対応
(2)教育機会確保法の発端
(3)不登校児童生徒の﹁定義﹂
(4)分離の正当化
4 学校の使命と現実的人間
(1)学校を変える視点なし
(2)子どもの変容が必須
(3)未熟なものとしての子ども
(4)子どもの権利条約の子ども観

第2章「学力」
1 基礎学力とは何か
(1)教育を「十分に受ける」という発想
(2)基礎的な内容の多様性と不安定性
(3)「基礎的」であることの暴力性
2 OECDの社会観・教育観
(1)未来社会のイメージ
(2)教育と雇用のミスマッチ論
(3)日本の教育は成功しているのか
(4)ビジネスに寄り添う学校像
(5)機械化による多忙化
(6)技術革新を止める必要性
3 教育を通した「成功物語」
(1)成功・成長の物語
(2)人材養成という発想
(3)不安定な「成功」
(4)明治維新が求めた人間像
(5)要求に応じる力としての「学力」
(6)競争自体の目的化
(7)生産性という発想
4 学力は個人のものなのか
(1)問題の個人化傾向
(2)教育と生きる権利との関係
(3)「批判的識字」の考え方
(4)歴史の主体となる学習
(5)個人所有という発想
(6)準備としての学習からの脱出

第3章「障害」
1 「別学」はなぜ必要とされるのか
(1)学校制度が生む差別
(2)学校体系の問題
(3)別学を必要とする理由
2 障害の社会モデル
(1)「困難」のありか
(2)「自立」の条件とは何か
(3)分類するという行為
(4)分離が支援の前提
3 インクルーシブな環境とは何か
(1)個性や多様性が苦手な学校
(2)インクルーシブな環境を目指して
(3)インクルーシブな学校は紹介されない
(4)価値統一に向けた分類
(5)差別問題としての「障害」
(6)バリアフリーと「差別」解消とは別事象

第4章「道徳」
1 「特別の教科 道徳」の成立
(1)何が問題なのか
(2)教科化の前段階
(3)なぜ教科になったのか
(4)教科化の不可能性
2 評価の問題
(1)道徳教育が目指すもの
(2)評価の困難性
(3)公権力と評価の問題
3 教科書の問題
(1)多面的な見方の否定
(2)偏見や差別の助長
(3)思いやりの危険性
4 人権教育と道徳教育の関係
(1)権利問題の視点
(2)人権教育の視点
(3)人権の視点から道徳教育をつくる
(4)子どもの全体を見ようとする危険性

第5章「校則」
1 何のための校則なのか
(1)髪染めをめぐる問題
(2)制服を着るということ
(3)「校則」と「生徒心得」
2 「校則」と子どもの権利条約
(1)子どもの最善の利益
(2)意見表明権の実践的課題
(3)現在の学校の特徴
3 校則の中での学び
(1)懲戒基準にみる権利問題
(2)私的領域への関心
(3)自発的隷従への誘惑

終章 新たな学びのイメージを

おわりに
参考文献
索引

出版社からのコメント

校則で「下着の色」は指定できるのでしょうか? 人権侵害で訴えられてもおかしくありません。ところが最近、裁判所は「頭髪指導」については適法であるという判断をくだしています。こうした校則はすべて「非行防止」という名目で決められていますが、果たして本当に非行に対して抑止力があるのでしょうか。
また、道徳の教科化により、児童生徒の心の中まで学校に評価される対象となってしまいました。そもそも道徳を学ぶことで、本当に学校での「いじめ」はなくなるのでしょうか。
この本では、いま学校で起こっている様々な問題に着目し、「不登校」「学力」「障害」「道徳」「校則」の5つのテーマごとに「子ども権利条約」に則して問題を論じています。学校教育に疑問を持つ保護者、これではいけないと思われる教職員の方々、子どもの教育に関心のある保護者、日本の教育制度に興味をお持ちの方、いろいろな方に読んでいただき、議論を深めていっていただきたいと思います。

著者紹介

池田 賢市(イケダ・ケンイチ)

1962年東京都足立区生まれ。筑波大学大学院博士課程教育学研究科単位取得中退後、盛岡大学および中央学院大学での講師・助教授を経て、現在、中央大学(文学部教育学専攻)教授。博士(教育学)。大学では、教育制度学・教育行政学などを担当。専門は、フランスにおける移民の子どもへの教育政策および障害児教育制度改革の検討。1993~94年、フランスの国立教育研究所(INRP、在パリ)に籍を置き、学校訪問などをしながら移民の子どもへの教育保障のあり方について調査・研究。共生や人権をキータームとして研究を進めている。著書として、『フランスの移民と学校教育』(単著、明石書店)、『人の移動とエスニシティ ――越境する他者と共生する社会に向けて』(共編著、明石書店)、『教育格差』(共編著、現代書館)、『法教育は何をめざすのか』(編著、アドバンテージサーバー)、『「特別の教科 道徳」ってなんだ?』(共著、現代書館)など。

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